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こどもの入院生活あれこれ

子ども療養支援協会諮問委員 江原伯陽

深田公園の池辺

こどもの入院生活は、その国の医療レベル、生活習慣や病棟のしきたり等によって大きく異なる。

アフガニスタンのカンダハール郊外で遭遇したinner displaced peopleの場合はとりわけ悲惨であった。頭が腫れて、次から次へとこどもたちが死んでいく奇病が発生しているということで、慌ててキャラバンを飛ばして行ってみると、荒地のあちこちに小さな盛り土があり、それが皆死んだ子供たちの墓だというのである。早速ブースを設け、診察を開始して分かったことは、なんのことはない、この奇病はおたふくかぜだったのである。遊牧生活で方々を転々とするこの部族のこども達は、予防接種を受ける機会がまったくなく、栄養失調がひどくなると、たかがおたふく風邪でも、ここでは致死的な疾患に豹変する。無論、病棟なるものはない。子どもはただ、肉親の腕の中で、うなだれて死んでいくだけである。それでも、生きているこども達は目を輝かせ、何もできなかった我々医療チームに精一杯の笑顔と感謝の気持ちを寄こしてくれた。

もう少しまともな医療機関はないものかと、首都のカブールにインディラ・ガンジ、小児病院があると聞いて行ってみたが、名の通り、ひと昔前にインドの支援で設立された病院である。しかし、一日に数時間も停電するこの病院では、未熟児を収容する古ぼけた保育器は蓋さえ閉まらず、そのまま棺桶の役割も果たしていた。交通事故で下肢を骨折した幼子は、ただギブスをまかれただけで、うつろな目つきで空を見つめたまま、来るあてもない家人を待ちわびていた。翻って、タイとミャンマーが接する国境沿いに、軍事政権を恐れて何日間もジャングルをさ迷い歩いて逃れてきた人々を収容する、外界と途絶された難民キャンプがある。その中で、生まれたての赤ん坊はその黄色い肌を露わに、道の真ん中で母親に抱かれ日光浴をしていた。つまり天然の光線療法である。その傍らにあるわら葺小屋では、奥さんにエイズであることを告げず、まともな治療を受けないまま、夫は息絶えていた。熱帯マラリアとデング熱で毎年数十人も亡くなっていくこのキャンプで、それでも子どもたちは至って元気に、すでにエイズウイルスに蝕まれた肉体を躍らせ、日本でいうベーゴマを路傍で楽しんでいた。

一方、中国の田舎にある人民病院では、一人っ子政策で生まれてくる子を大切にするあまり、その多くは帝王切開で生まれ、「腹を痛めて生んだ子」は、ここでは日本と違う光景を連想するらしい。そして、病気で入院した子どもたちは、付き添いの家族とともに、さして広くもない病室がごった返すほど、所狭しに入院生活を送っていた。

ことさように、このような途上国において、CLS・HPS 諸姉が活躍できる場はどんなところがあるだろうか?と、咄嗟に脳裏に思い浮かべないのは、ひとえに筆者の想像力の乏しさ所以である。きっと世界中の、”Children Under Stress”**あるところに、皆様が活躍できる場があるのだろう。GW を利用して訪れた米国の小児病院では、CLS は緊急手術中に児を励まし続けるために、ついに小生からのアポをすっぽがした。全く頼もしい限りというほかない。

国境を越えて避難する難民を管理する国連難民高等弁務官事務所の力が及ばない「国内避難民」のこと。

**英国の著名な小児精神科医Dr.Sula Wolff が世のために分かりやすく書いた名著のタイトル Penguin Books 1981

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