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子供のPTSDについて

和紙ちぎり絵Ⓒ森住ゆき 画像の転載禁

子どもが殺傷、虐待、事故や災害などの強い恐怖を体験した後に、その心の傷が原因となってさまざまな精神的または身体的な症状を起こすことをPTSD(PostTraumatic-StressDisorder心的外傷後ストレス障害)といいます。その症状は数ヶ月で治る軽度のものから、一生心の傷を背負わされる重症のケースまであります。ここでは、震災によって実際に典型的なPTSDを起こしたSちゃん(4才)を例に、この症状について説明してみましょう。

夜中に、急に床がガタガタと揺れだしたかと思うと、まわりの本棚やタンスが自分に向かって倒れてきた。それから家が恐竜に呑み込まれたかのように、上下左右ぐるぐると回り始めた。気がついたら、Sちゃん(4才)は崩れた家の隙間に挟まれ、大声で「ママ!」と叫んだが返事がなかった。数時間後に消防隊員に助け出されたが、ママとおねえちゃんはもう既に冷たくなっていた。それから、パパと二人きりの避難所生活が始まった。

余震が続く中、小さな音や揺れでも、Sちゃんはびくっとして、パパや友達と一緒にいないと怖くてしょうがなかった。夜も明かりがついていないと眠れなくなった。もう一度地震が起きると、もっと悪いことが起こるのではないかと心配ばかりしていた。そして時々急にママのことやおねえちゃんのことを思い出して、寒空のグランドの片隅で涙が止まらなくなっていた。

こうして、災害の後に受ける心の傷は、大人の場合、自分の感情を何らかの形で言葉に出し、受けたショックや不安について友人や家族との語らいの中から、または行政、近隣や親戚の援助を受けながら、癒しへの道のりを見出していくことが可能でしょう。

一方、子どもの場合はどうでしょう?子どもは不安や不快感を大人と同じように上手に言葉に出して表わすことができません。大人と違ってほかの人の力を借りて解決の道筋をたどることが容易にできないのです。そのために、心の傷は自分の中で目に見えない不安となって、情緒不安定や人を困らせる行動を起こしたりします。さらに子どもたちにとって不幸なのは、まわりの大人たちも災害によって被った様々な悩みを抱えているために、子どものこうした不安定な状態を受け入れることができないでいるということです。子どもたちは叱られたり注意される中で、親に怒られまい、安心させようというもうひとつの葛藤を抱えることになります。そのため、災害で受けた不安を自分で押さえ込んでしまい、周りの大人もそれに気づかないという悪循環を繰り返すことになります。

Sちゃんの避難所での状態は、まさにこういう子どもの恐れや不安を表わしています。

6ヶ月たって、Sちゃんはようやく、郊外の不便な場所に建てられた仮設住宅にパパと引っ越すことになった。昼間はパパが仕事に行っているため、Sちゃんは近くの保育園へ通うことになった。そこではお友達と話すのがしんどくて、みんなと一緒にいてもちっとも楽しくなかった。頭が痛くなったり、おなかが痛くなったり、胸がドキドキしたりして、保母さんがお医者さんに連れて行ってくれたけれど、なんともないと言われた。そしてすぐに友達に腹が立って叩いたりし始めた。また保母さんたちが震災の話をし始めると、急にその場から離れたくなって外の砂場に行ったりした。家に帰って、夜はパパと寝ても眠れなかったり、すぐに目が覚めたりしてパパを困らせた。ついにSちゃんは、自分からママやおねえちゃんのことを話さなくなった。

このようなSちゃんの仮設住宅での状態は、子どもの抑うつされた気持ちやストレスによって起こる典型的な症状を示しています。

PTSDの症状は、被災直後よりも約6ヵ月後に、また男の子よりも女の子に症状が出やすいと言われています。小さな子どもは、上手に話ができない分、年齢が小さいほど症状がひどいとの結果が出ています。絵の具などでキャンパスに絵を描かせると、心の状態を表わす風景を描く場合があります。Sちゃんの絵では、崩れた家の前でママとおねえちゃんが大きく描かれていて、額にバンドエイドが貼ってありました。自分は絵の右下に小さく描かれているだけでした。この時期における感情の吐き出しはとても大切で、適切なこころのケアが施されなければ、長期にわたって心の傷が癒えず、傷口が開いたままになります。子どもたちが言わんとしていることや微妙なサインを大人が確実に読み取ることが大事です。

もし、あなたのお子さんがSちゃんのような状態になったら、お子さんが怖かったこと、悲しかったことなど、何でもいいからお話を聞いてあげてください。
「もう大丈夫」、「お父さん、お母さんが守ってあげるからね」
「嫌なことがあったら、何でも言ってね」
このような言葉を、お子さんを抱きしめてながら繰り返し言ってあげてください。
そしてできるだけお子さんを一人にしないでください。

8月になって、沖縄のいとこからSちゃんに遊びに来ないかの誘いがあった。Sちゃんはまぶしい太陽の下で、服を濡らしながら、貝殻を見つけたり、ヤドカリを捕まえたりして、仮設住宅では出せないような大声を出しながら、思い切り自然を楽しんだ。

真っ黒になって保育園に戻ってきたSちゃんは、以前に比べて見違えるほど明るく、みんなと遊べるようになった。

このように、悲惨な生活環境から思い切って脱出するのもひとつの方法です。というのは、生活環境によっても、PTSDの発生頻度が異なるからです。また、子どもの心のケアは単に子どもだけでなく、災害などの場合、子どもの世話をする親は同時に被災者でもあるわけですから、Sちゃんのお父さんも含めて、家族全体への援助と環境の整備がひいては子どもへの助けにもなります。

PTSDの子どもは一人で心の傷を治すことができません。周りの方々の暖かいサポートがあってこそ、癒しへの道のりを歩んでいくことができるのです。もし身近に子どもの精神面に詳しい小児科医や心理カウンセラーがいれば是非受診してみてください。しかし、何よりもその子のそばにいて、いたわることのできるあなたこそ最良の主治医であることを忘れないでください。

歌「おうちがゆれた」
作曲:塚本潤一 ボーカル:関谷直人

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